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イエロージャケッツ『イエロージャケッツ』

イエロージャケッツ『イエロージャケッツ』
イエロージャケッツ(Yellowjackets)『イエロージャケッツ』(Yellowjackets)

1981年にリリースされたイエロージャケッツのセルフタイトル作『Yellowjackets』(イエロージャケッツ)は、いわゆるフュージョン隆盛期の「商業ジャズ」と「アーティスティックなアンサンブル・ミュージック」のちょうど境目に立つような作品として位置づけられます。
ポップでキャッチーなフックを備えながらも、アンサンブルやハーモニーはかなり練られており、後年の彼らの長いキャリアを決定づけた「イエロージャケッツらしさ」がすでに明確に提示されているアルバムです。

コンセプトとバンド成立の背景

このアルバムは、もともとロベン・フォードのバンドを母体として生まれたユニットが、ワーナーのトミー・リピューマに見出され、グループとして独立するなかで録音された作品です。
もともと無名の「スタジオ系ユニット」に近い存在だった彼らに、リピューマが「Yellowjackets」(スズメバチの意味)というバンド名と、後述するハチのエンブレムを与えたことで、単発プロジェクトではない「グループ」としてのアイデンティティが明確になりました。
コンセプトとしては、当時のコンテンポラリー・ジャズ/フュージョンの文脈にありながら、ポップス寄りに流れすぎない、バンド主体のジャズ・ロック・アンサンブルを提示することに重きが置かれていたように見えます。

音楽性・サウンドの特徴

音楽的には「ジャズ・ロック+ファンク+ポップ・センス」という三つ巴が、そのままバンドの個性になっています。

  • ロベン・フォードのブルース色の強いギターがロック的なドライブ感をもたらし
  • ジミー・ハスリップのエレクトリック・ベースがファンキーなグルーヴと複雑なラインを両立させ
  • ラッセル・フェランテのキーボードが、エレピやシンセを駆使してハーモニー面とサウンドスケープを支える、という構造です。

特筆すべきは、この作品が「初期のオール・デジタル録音の1枚」であり、当時としては実験的なデジタル録音技術によって、非常にクリアでブライトな音質を獲得している点です。
アコースティックなジャズというより、エレクトリックなフュージョンのサウンドを強調する意味でも、このクリーンな音像は作品コンセプトの一部になっており、結果として1981年当時の「コンテンポラリー・ジャズの音そのもの」を象徴するようなサウンドになっています。

代表曲として挙げられることの多い「Matinee Idol」「Imperial Strut」「The Hornet」あたりは、冒頭からフックの強いテーマと、緻密に組まれたリズム/ベースのコンビネーションが際立ち、ラジオ向けのキャッチーさと、プレイヤーズ・ミュージックとしての聴き応えが両立しています。
一方で「It’s Almost Gone」のようなバラードでは、ピアノやギターがそれぞれ異なるニュアンスの哀感を表現するなど、アルバム全体のダイナミクスもよく考えられています。

制作エピソードと録音体制

プロデュースはワーナーの名匠トミー・リピューマ(Tommy LiPuma)が担当し、リズム・トラック録音にリー・ハーシュバーグ(Lee Herschberg)、追加録音とミックスにアル・シュミット(Al Schmitt)が関わるという、当時のメジャー・ジャズ/ポップ作品の「黄金コンビ」による制作体制です。
マスタリングもハリウッドの The Mastering Lab でマイク・リース(Mike Reese)が手がけており、サウンド面にはかなりの力が注がれています。

バンド名「Yellowjackets」もリピューマのアイディアによるもので、ワーナーが依頼したデザイナーによる「ハチのエンブレム」が作られ、それがグループの視覚的アイデンティティになっていきました。
つまり、音だけでなく「名前」と「ロゴ」を含めて、最初から長期的に続くバンドとして設計されたプロジェクトだったと言えます。

参加ミュージシャンとアレンジ

コア・メンバーは以下の4人です。

  • ラッセル・フェランテ(Russell Ferrante):キーボード、シンセサイザー
  • ロベン・フォード(Robben Ford):ギター
  • ジミー・ハスリップ(Jimmy Haslip):ベース
  • リッキー・ローソン(Ricky Lawson):ドラム

これに加えて、LAの一流スタジオ・ミュージシャンたちがゲスト参加しています。

  • ラリー・ウィリアムズ(Larry Williams):シンセサイザー・プログラミング、テナーサックス、フルート、ホーン編曲
  • ボビー・ライル(Bobby Lyle):アコースティックピアノ (3)
  • ローランド・バウティスタ(Roland Bautista):ギター(3)
  • レニー・カストロ(Lenny Castro):パーカッション
  • パウリーニョ・ダ・コスタ(Paulinho Da Costa):パーカッション
  • アーニー・ワッツ(Ernie Watts):テナーサックス (1)
  • ゲイリー・ハービッグ (Gary Herbig):テナーサックス、フルート
  • キム・ハッチクロフト (Kim Hutchcroft):バリトンサックス、テナーサックス
  • ビル・ライヒェンバッハ・ジュニア(Bill Reichenbach jr):トロンボーン、ホルン編曲
  • ジェリー・ヘイ(Jerry Hey):トランペット、フリューゲルホルン、フリューゲルホルンソロ (5)

ジェリー・ヘイやラリー・ウィリアムスらフュージョンバンドの「シーウィンド」に所属、マイケル・ジャクソンやアース・ウィンド&ファイアのホーン・アレンジで知られる面々が関わっているため、ホーン・セクションのテイストはポップ/R&B寄りの洗練を感じさせます。
結果として、当時のAOR〜フュージョンの文脈と、ジャズ・ロック的なアドリブ重視の姿勢が、非常に高いレベルで融合したサウンドが生まれています。

トラック・リスト

Side 1

  1. マチネー・アイドル(Matinee Idol) - 5:08
  2. インペリアル・ストラット(Imperial Strut) - 5:25
  3. シッティン・イン・イット(Sittin' in It) - 5:06
  4. ラッシュアワー(Rush Hour) - 5:13

Side 2

  1. オーネット(The Hornet) - 5:29
  2. プリシラ(Priscilla) - 5:11
  3. イッツ・オールモスト・ゴーン(It's Almost Gone) - 6:00

発表時の反響とその後

『イエロージャケッツ』は1981年にワーナー・ブラザーズからリリースされ、ビルボードのジャズ・アルバム・チャートで16位を記録し、デビュー作としては上々の商業的成功を収めました。
また、ライヴ盤『Casino Lights』(モントルー・ジャズ・フェスティヴァル録音)とあわせての露出により、ラジオやフュージョン・ファンのあいだで彼らの名は一気に知られることになります。

批評面でも、オーディオ的なクオリティと楽曲・演奏の両面が高く評価され、「弱い曲が1曲もない」「 contemporary jazz の“良い側面”を体現したサウンド」といった形で、後年のレビューでも再評価が続いています。
40周年を振り返る記事などでも、本作は「初期オール・デジタル作品として革新的であり、明るくクリーンでフレッシュな音像を持つアルバム」としてしばしば言及されています。

ジャケットデザインとビジュアル面

ジャケットは、ハチ(Yellowjacket)をモチーフにした紋章的なロゴが大きくフィーチャーされたデザインで、アート・ディレクションとデザインはサイモン・レヴィ、ロゴ・デザインがマイク・マヌージアン、イラストレーションがJ. Daniel Chapmanによるものです。
ワーナー側が意図的に「ヘヴィメタル風のエンブレム」のようなロゴを用意し、ジャズ/フュージョンの領域にいながらも、ロック/ポップ市場でも目を引くビジュアルを狙ったことが語られています。
こうしたブランド化されたロゴは、その後のアルバムやプロモーションでも繰り返し用いられ、イエロージャケッツというグループの長期的なイメージ形成に大きく寄与しました。

特筆すべきポイントのまとめ

このアルバムの「特筆すべき点」をいくつか挙げると、次のようになると思います。

  • 初期のオール・デジタル録音作品として、1981年のコンテンポラリー・ジャズのサウンドを象徴する鮮烈な音像を持っていること
  • ロベン・フォードを含むオリジナル編成による、ブルース/ロック色の強いギターと洗練されたキーボード、ファンキーなベース、シャープなドラムが織りなす、バンド主体のフュージョンであること
  • ジェリー・ヘイら一流のホーン・セクションとLAのファースト・コール・プレイヤーが参加し、ポップ〜AOR的な洗練とジャズ・ロックのエッジが高いレベルで融合していること
  • トミー・リピューマとアル・シュミットという当時の最高峰の制作陣による、楽曲とサウンド・プロダクション双方の完成度
  • ビルボード・ジャズ・チャート16位という商業的成功と、その後の長いキャリアを支える「イエロージャケッツ・サウンド」の原型がここで確立されていること。

イエロージャケッツのディスコグラフィを遡って聴き直すとき、このデビュー作は「すでに完成していた出発点」として、バンドの変遷を考えるうえでとても興味深い1枚だと思います。

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Citations:

  • https://artsfuse.org/216000/jazz-album-review-the-yellowjackets-celebrate-turning-40-with-a-big-band/
  • https://www.reddit.com/r/JazzFusion/comments/qu40gz/yellowjackets_1981/
  • https://www.allmusic.com/album/yellowjackets-mw0000201519
  • https://en.wikipedia.org/wiki/Yellowjackets_(album)
  • https://jazztimes.com/features/profiles/yellowjackets-looking-back-and-moving-forward/
  • https://www.yellowjackets.com/store-page/p/samurai-samba-cd-rj5bj-yp3bt
  • https://sessiondays.com/2016/08/13/1981-yellowjackets-yellowjackets/
  • https://www.audioholics.com/music-reviews/yellowjackets-yellowjackets-1981
  • https://www.allaboutjazz.com/timeline-yellowjackets-mack-avenue-records-review-by-mark-f-turner
  • https://albumartexchange.com/covers/573162-yellowjackets?q=Charles1948&fltr=UPLOADER&page=78
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