
英国のプログレッシブロックバンド、ピンク・フロイド(Pink Floyd)の『狂気』です。
原題は『The Dark Side Of The Moon』。
彼らの8枚目のアルバムで1973年にリリースされました。
このアルバムは発売以来、全米チャートに570週にわたってランク・インするという驚異的なロング・セールスを記録したロック史に残る名盤として知られています。
ジャケットの漆黒の背景にプリズムから映し出された七色の光線をモチーフとした印象的なデザインはヒプノシスというイギリスのデザインチームが手がけました。
彼らの手がけたアルバムのジャケットは単なるジャケットデザインをアートに昇華させたといわれています。
このジャケットデザインもまた、歴史に残るものとされています。
イントロダクションは心臓の鼓動ような音からはじまります。
人を不安に陥れるような低音の脈動。
タイプライターの音、レジスターの音、会話、笑い声、ヘリコプターの音、叫び声。
そして生命が誕生する…。
『The Dark Side Of The Moon』という原題は月の裏側という意味ですが、邦題は『狂気』。
この邦題は、一見、原題からはかけ離れた感じを受けますが、どうしてなかなかのタイトルです。
普段、月がわれわれに見せているのは表側だけです。
月は自転していないので…。
これは例えれば人が普段、見せている表の顔と言ってもいいでしょう。
だとすると裏の顔はなんでしょう?
人の狂気と共通するものがありますね。
それが『The Dark Side Of The Moon』なのです。
ただ、アルバム最後の「Eclipse」の邦題が「狂気日食」というのは、ちょっと、やりすぎでは…。
このアルバムに一貫して流れているコンセプトは「You」が生まれて狂気に陥るまでの物語性にあります。
これはピンク・フロイドのオリジナル・メンバーで精神を病んで脱退したシド・バレットと重ねられているともいわれています。
それにしても何ゆえこのアルバムが歴史に残る名盤といわれているのでしょう。
難解ではあるけど、キャッチーなメロディを合わせもつ楽曲。
ロジャー・ウォーターズの哲学的な詩の内容を演出する、時計の音やレジスターなどの効果音と完成度の高い録音。
デビッド・ギルモアの一種、カタルシスといってもいい陶酔感のある泣きのギター。
こうした、要素が高い次元で奇跡的にミクスチャーされ生まれた作品なのです。
と、思わず力説してしまいました。
このアルバムは録音がきれい過ぎて、個人的には『P.U.L.S.E』というアルバムで聴くことができるライブ演奏あたりのほうが好みです。
パーソネル
ピンク・フロイド- デヴィッド・ギルモア(David Gilmour) – vocals, guitars, Synthi AKS
- ニック・メイソン(Nick Mason) – drums, percussion, tape effects
- リチャード・ライト(Richard Wright) – organ (Hammond and Farfisa), piano, electric piano (Wurlitzer, Rhodes), vocals, VCS 3, Synthi AKS
- ロジャー・ウォーターズ(Roger Waters) – bass guitar, vocals, VCS 3, tape effects
レコーディング・ミュージシャン- Dick Parry – saxophone on "Us and Them" and "Money"
- Clare Torry – vocals on "The Great Gig in the Sky"
- Doris Troy – backing vocals
- Lesley Duncan – backing vocals
- Liza Strike – backing vocals
- Barry St. John – backing vocals
トラックリスト
- スピーク・トゥ・ミー(Speak To Me) - 1:13
- 生命の息吹き(Breathe) - 2:43
- 走り回って(On The Run) - 3:36
- タイム(Time) - 6:53
- 虚空のスキャット(The Great Gig In The Sky) - 4:36
- マネー(Money) - 6:23
- アス・アンド・ゼム(Us And Them) - 7:49
- 望みの色を(Any Colour You Like) - 3:26
- 狂人は心に(Brain Damage) - 3:49
- 狂気日食(Eclipse) - 2:03