キース・ジャレット(Keith Jarrett)の『ザ・ケルン・コンサート(The Köln Concert)』です。
最初に聴いたのは、いつの頃だったろう?
おそらく、社会人になって間もないころだったと思う。
判然とはしないのだが、当時、住んでいた神奈川県秦野市の喫茶店。
正確にいうなら小田急線、秦野駅の駅前にあったジャズ喫茶ではなかっただろうか…。
店の名前は忘れてしまったが、このジャズ喫茶、立派なオーディオ装置は置いていなかった(気がする)がキース・ジャレットの『ソロ・コンサート』は、よく流れていました。
最初に本作の1曲目、「パート1」の入りを聴いたときの印象は「美しい!」。
ただこれだけ。
聴き終えたときは「これも、ジャズなのか」と…。
これまで、自分の中に形作られたジャズの概念がガラガラと崩れてしまった。
スゥイング感どころか、ビートが感じられない。
とはいえ、クラシックでもない。
ピアノの旋律と音色は、混じりけのない純水のように硬質で無機的。
ただただ、美しい。
「パート1」の9分を越えたころになると美しいだけでなく、旋律がドライヴしてグルーブ感がでてくる。
このあたりが、ジャズファンをも虜にした要因なのだろう。
とはいえ、スゥイングジャズやヴァップなどが大好きな人たちからは白眼視されておりますが…。
本作に楽譜はありません。
キース・ジャレットが、その場で、感性の限りを絞り出し思いつくままに弾いたものを録音したものです。
インプロヴィゼーションといわれる、いわゆる即興です。
30分近くも即興で弾くなんて、凄いね。
神がかったプレイとかゾーンに入ったとは、こういうのをいうのではなかろうか?
曲名も即興のせいか「パート1」や「パート2A」、「パート2B」といった、味気ないものです。
録音されたのは1972年1月24日。
場所はケルンコンサートというだけあって、ケルン大聖堂で有名なドイツ西部の古都、ケルンのオペラハウス。
ものの本によるとコンサート当日、プロモーターはジャレットの要請にこたえてベーゼンドルファーの最上位機種のモデル290インペリアル・コンサート・グランド・ピアノを準備する用意をしたが、実際に会場に届いたのはコンディションの悪い小ぶりなベーゼンドルファーのグランド・ピアノ。
ジャレット自身、車での長時間移動の疲れや持病の背中の痛みもあり、一時、コンサートは中止の方向に傾いた。
しかし、ピアノも何とか調整し、若いプロモーターが懸命に説得した結果、ジャズの歴史に残るような名演が行われた。
オペラコンサートの次のプログラムだったこともあり、時計は既に23時半を回っていたという。
実をいうと、このエピソードを読むまではキース・ジャレットの弾いているピアノはスタインウェイ・アンド・サンズだとばかり思っていた。
だから、それまではスタインウェイと聞くと何となく、このアルバムを思い浮かべたりした。
でも、違っていたのですね。
余談ですがベーゼンドルファーは経営が傾き2007年に日本のヤマハが買収しました。
昔、通っていたジャズバーのマスターはこのアルバムが嫌いだったなぁ。
リクエストされれば、一応、レコードはかけてはくれましたが…。
ちなみにマスターはオスカー・ピーターソンがお気に入りでした。
トラックリスト
- Part I - 26:01
- Part IIa - 14:54
- Part IIb - 18:13
- Part IIc - 6:56
パーソネル
- ピアノ・ソロ:キース・ジャレット
- 制作:マンフレート・アイヒャー/ECMレコード
- 録音:1975年1月24日 ドイツ/ケルン, オペラ劇場 実況録音
- 技師:マーチン・ヴィーラント
- 写真:ヴォルフガング・フランケンシュタイン
- デザイン:B&Bヴォユルシュ