
Rickie Lee Jones(リッキー・リー・ジョーンズ)の2枚目のアルバム『Pirates』(パイレーツ)は、1981年7月15日にWarner Bros. Recordsからリリースされました。このアルバムは、デビューアルバムの大成功を受けて制作された意欲作で、ジョーンズ自身の音楽的成長と個人的な経験が色濃く反映されています。
コンセプトと音楽性
『Pirates』は、ジョーンズのデビューアルバムとは一線を画す、より野心的で複雑な作品となりました。アルバムのコンセプトは、ジョーンズの個人的な経験、特にミュージシャンのトム・ウェイツ(Tom Waits)との破局を反映しています[3]。しかし、単なる失恋アルバムではなく、より広範な音楽的探求と詩的な表現を追求しています[7]。
音楽的には、ジャズ、R&B、ビバップ、ポップ、ブロードウェイミュージカルの要素を融合させ、多くの曲で複数のテンポやムードの変化を取り入れています[3]。レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)、ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)、ローラ・ニーロ(Laura Nyro)などの影響も感じられ、映画音楽的な要素も強く出ています[3]。
サウンドの特徴
『Pirates』のサウンドは、ジョーンズの特徴的なボーカルを中心に、豊かな楽器編成と緻密なアレンジが特徴です。クリスタルのような透明感のあるジョーンズのボーカルが、スタークなピアノパートや温かみのあるシンセサイザー、オーボエ、ストリングスと絶妙に調和しています[1]。
アルバム全体を通して、ジョーンズの独特のボーカルスタイルが際立っています。彼女の声は、ささやき声からエッジの効いた声、甘い歌声から叫び声へ、幅広い表現を見せています[5]。また、複雑なリズムの変化や、ジャズ的即興性を取り入れた楽曲構成も特徴的です[6]。
制作時のエピソード
『Pirates』の制作は1980年1月に始まり、1981年4月に完了しました。初期のセッションでは5曲を録音し、その後ジョーンズは執筆のための休暇を取りました。セッションは1980年11月に再開され、リリースの3ヶ月前まで続きました[3]。
制作過程では、ジョーンズの完璧主義的なアプローチが際立ちました。有名なエピソードとして、ドラマーのジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)とのセッションがあります。ジョーンズは、ポーカロの正確なタイミングキープに不満を示し、より自由でルーズなプレイを要求しました。結果的に、スティーヴ・ガッド(Steve Gadd)がほとんどのドラム演奏を担当することになりました[8]。
参加ミュージシャン
アルバムには多くの一流ミュージシャンが参加しています。主な参加者は以下の通りです[3][35]:
- Rickie Lee Jones (ボーカル、ギター、キーボード、シンセサイザー、パーカッション、ホーンアレンジ)
- Donald Fagen (シンセサイザー)
- Victor Feldman (ドラムス、パーカッション、キーボード)
- David Sanborn (アルトサックス)
- Tom Scott (バリトン・テナーサックス)
- Chuck Rainey (ベース)
- Steve Gadd (ドラムス)
- Randy Brecker (トランペット、フリューゲルホーン)
発表時の反響
『Pirates』は発売後、批評家から高い評価を受けました。Rolling Stone誌は5つ星満点の評価を与え、女性ミュージシャンの音楽としてだけでなく、ロックアルバムとして高く評価されました[38]。
商業的にも成功を収め、Billboard 200チャートで5位を記録し、ゴールドディスクを獲得しました[3]。しかし、デビューアルバムの半分程度の売り上げにとどまりました[38]。
特筆すべきこと
『Pirates』は、ジョーンズの音楽的成熟と芸術性を示す重要な作品として評価されています。複雑な楽曲構成と詩的な歌詞、そして独特のボーカルスタイルが高く評価され、後のアーティストにも大きな影響を与えました[7]。
2017年には、NPRが選ぶ「女性が作った最も偉大なアルバム150選」で49位にランクインし、その芸術的価値が再評価されています[43]。
『Pirates』は、商業的成功を追求するのではなく、自身の芸術的ビジョンを追求したジョーンズの姿勢を象徴する作品として、今もなお多くの音楽ファンに愛され続けています。
Citations:
[1] https://musicaldiscoveries.com/digest/digest.php?a=viewr&id=892
[2] https://ontherecord.co/2022/06/09/rickie-lee-jones-pirates/
[3] https://en.wikipedia.org/wiki/Pirates_(Rickie_Lee_Jones_album)
[4] https://en.wikipedia.org/wiki/Rickie_Lee_Jones_(album)
[5] https://glidemagazine.com/221996/40-years-of-rickie-lee-jones-looking-back-at-songstress-eponymous-debut-lp/
[6] https://www.sessiondays.com/2014/08/1981-ricky-lee-jones-pirates/
[7] https://www.popmatters.com/rickie-lee-jones-pirates-atr
[8] https://www.honest-broker.com/p/the-engima-of-rickie-lee-jones
[9] https://shawnconnerblog.com/2012/05/rickie-lee-jones-pirates-retrospective/
[10] https://rickieleejones.com/pirates/
[11] https://forums.stevehoffman.tv/threads/rickie-lee-jones-pirates-mfsl-sacd-sound-opinions.188241/
[12] https://www.elsewhere.co.nz/albumconsidered/9399/rickie-lee-jones-pirates-considered-1981-heartbreak-heroin-and-hope/
[13] https://www.allmusic.com/album/pirates-mw0000650332
[14] https://www.npr.org/sections/therecord/2017/07/26/539509195/rickie-lee-jones-on-the-pirates-who-inspired-pirates-and-returning-to-new-orlean
[15] https://note.com/krichards/n/n94d7bef75736
[16] https://forums.stevehoffman.tv/threads/rickie-lee-jones-album-by-album-thread.88316/
[17] https://www.whatsbestforum.com/threads/which-pressing-pirates-rickie-lee-jones.7045/
[18] https://www.facebook.com/photo.php?fbid=884129323742186&id=100064353802575&set=a.458443789644077
[19] https://forum.psaudio.com/t/rickie-lee-jones-album/225
[20] https://www.discogs.com/release/7087207-Rickie-Lee-Jones-Pirates
[21] https://ontherecord.co/2022/06/09/rickie-lee-jones-pirates/
[22] https://www.rhino.com/article/the-one-after-the-big-one-rickie-lee-jones-pirates
[23] https://www.discogs.com/release/2599660-Rickie-Lee-Jones-Pirates
[24] https://www.discogs.com/release/2534802-Rickie-Lee-Jones-Pirates
[25] https://music.apple.com/us/album/pirates/1420446638
[26] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA
[27] https://www.kunc.org/2017-07-26/rickie-lee-jones-on-the-pirates-who-inspired-pirates-and-returning-to-new-orleans
[28] https://open.spotify.com/album/5N6UmR2WC52cLOmYtytdJG
[29] https://www.wunc.org/npr-music/2017-07-26/rickie-lee-jones-on-the-pirates-who-inspired-pirates-and-returning-to-new-orleans
[30] https://www.allmusic.com/album/rickie-lee-jones-mw0000190561
[31] https://www.songfacts.com/facts/rickie-lee-jones/living-it-up
[32] https://www.chicagotribune.com/2013/05/23/the-twists-and-turns-of-rickie-lee-jones-3/
[33] https://www.missingpiecegroup.com/rickie-lee-jones
[34] https://www.louisianamusicfactory.com/product/rickie-lee-jones-pirates-vinyl-lp/
[35] https://rickieleejones.com/pirates/
[36] https://www.sessiondays.com/2014/08/1981-ricky-lee-jones-pirates/
[37] https://en.wikipedia.org/wiki/Pirates_(Rickie_Lee_Jones_album)
[38] https://vintagerock.com/ira-kantors-vinyl-confessions-sad-eyed-sinatra-rickie-lee-jones-pirates-looks-at-40/
[39] https://www.honest-broker.com/p/the-engima-of-rickie-lee-jones
[40] https://www.popmatters.com/rickie-lee-jones-pirates-atr
[41] https://en.wikipedia.org/wiki/Rickie_Lee_Jones_(album)
[42] https://shawnconnerblog.com/2012/05/rickie-lee-jones-pirates-retrospective/
[43] https://en.wikipedia.org/wiki/Rickie_Lee_Jones
アルバムレヴュー
リッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones)の『パイレーツ(Pirates)』です。
1981年にリリースされた彼女の3枚目のアルバムですね。
この人の音楽ってオンリーワンですよねぇ。
リトル・フィートのギタリスト、ローウェル・ジョージに見いだされデビューしたわけですが、そのときに矢野顕子の歌を聴かされ今のようなけだるい、ひとくせある歌い方になったというような話を昔、ラジオかなんかで聞いたことがあります。
時には純真無垢の少女のような、時には年期の入ったスナックのお姉さんのようなすれっからしの印象があります。
か弱そうだけど強い。
かわいいけど肝が据わっている。
ハッピーだけど哀しい。
前作の『浪漫』もそうですが、彼女の歌にはそんなことを感じさせる何かがあります。
ホント、心に沁みます。
家出、アルコールやドラッグ、妊娠中絶。
絵に描いたような転落パターンですが、こうした生活を送りながら、クラブで歌っているところをスカウトされスターになっていくというのは、まるで映画のようです。
こうしたデビューまでの決してハッピーとはいえない経験が、ちょっと一筋縄ではいかない感のオーラを発するミュージシャンにさせたのでしょうか?
ついでながら、この作品を発表する数年前までミュージシャンのトム・ウェイツと付き合っていたのは有名な話。
6曲目に収録されている「ラッキー・ガイ」はトム・ウェイツのことを歌った作品だとか。
それにしてもサポート・ミュージシャンの豪華なこと…。
プロデューサーがレニー・ワロンカーという大物がやったおかげでしょうか?
ギターにはスティーブ・ルカサー、バジー・フェイトン、ベースはチャック・レイニー、ドラムはスティーブ・ガッド、キーボードにはニール・ラーセン、ホーンセクションにはランディ・ブレッカー、デイヴィッド・サンボーン、シンセサイザーにはドナルド・フェイゲンの名前も見えます。
ちなみにアレンジには、AORの元祖とも言われるニック・デカロです。
このメンツを見ると思いっきりサウンド志向でミュージシャンがバリバリと弾いてる姿を期待してしまいますが、そのプレイは概ね控えめなものです。
これぞ、サポートミュージシャンの真骨頂。
そういえばジャケットの写真はブラッサイというピカソやマチスとも親交のあったハンガリー出身の写真家が撮ったものです。
ブラッサイは夜のパリで娼婦や恋人たちを撮った作品を多く残しました。
そういう意味ではアートワークも一流です。
トラックリスト
- 心のきずな(We Belong Together) - 5:04
- リヴィング・イット・アップ(Living It Up) - 6:24
- スケルトンズ(Skeletons) - 3:39
- スロー・トレイン・トゥ・ペキン(Woody and Dutch on the Slow Train to Peking) - 5:18
- パイレーツ(Pirates[So Long Lonely Avenue]) - 3:55
- ラッキー・ガイ(A Lucky Guy) - 4:19
- ウェスタン・スロープ(Traces of the Western Slopes[R. L. Jones, Sal Bernardi]) - 7:59
- 帰還(The Returns) - 2:20
1981年作品